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Post by DawnSanada on Jun 23, 2019 14:03:46 GMT -5
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Post by DawnSanada on Jun 23, 2019 14:59:33 GMT -5
プレサイドストーリー連載 鎧伝サムライトルーパー異聞 (2) Yoroiden Samurai Troopers Strange Story 夕陽の果て End of the Evening Sun 文。海老沼三郎 絵·山田きさらか 〈協力·サンライズ〉
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おいかわらず、真田遼の山登りはつづいて~が体みのときなどは、ずっといりになることもめずらしくなかった。 ーの明るいうちは岩壁を登り、与野を歩く「イ0しトアントを、り,メシを次新リた小阜一な」るい力「遼の舸に「,は夜、テントの前て災き火をご一「真の赤な炎をながめていると、彼の頭のなかには年限のイメージが交錯してくる。 純に一本化すればするはど、このイメージがくらんてくるような.メカしたたカ、あの白い虎と出遇ってからの遼はそラてはなかった。 すぐにイメシか停しと-フしても考-んることカ、あるカ・可にい一つ、てしま・フよ・フになっ。ていた。 虎も、最ガは、遼の目の前を横切
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Post by DawnSanada on Jun 23, 2019 15:16:58 GMT -5
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るたんなる「白いもの」にすぎなかった。 (なんだろう?) と気にはしていたが、なかなかその実体をつかむことはできなかった。 それが·いに遼の前に、その姿を現した。 大鷲との闘いのときだ。 遼は大鷲との力比べに負けて、(あわや となった。 そのあわやのときに、その白い虎は突然、一現れ、谷底いっばいに響きわたるような声で乳えた。 あのときあの白い虎の砲略がなかったら、遼はどうなっていたかわからない。 おそらく力尽きて谷底へ転落したか、大鷲につれ去られたか、したに違いない。 それを、あの白い虎が救ってくれた。 まるで遂を助けるために登場したようにさえ思。えた。 かといってそのときは、たんなる一人の少年と虎である。 遼は身構えて、 虎をにらんだ。 (米るなら来い!) というぐらいの気持ちであった。 だがそのときはどういうわけか、虎はおとなしく去っていった。途に向かってくる気配はまるでなかった。 それからも遊はただびたび、その虎と出遇っ虎はいつし、まるで遼の行手を阻むかのように、スッと現れるのだった。 そのたびに、 遼は緊張した。キッと、虎をにらみつけた。 すると、 虎は決まって題を返し、おとなしく去っていくのだ。 そんな出遇いが数回つづいた。 そうなると、不思談だ。 今度は遇わないと気になる。山を歩いていても、つい遭うことを期待するようになっていた。 Ryouうと、ホッとするような気持になった。 それに最初のときから、なぜか、あの虎にル心怖感はなかった。いつも冷静に対崎した。 だが考えてみると、そんな自分が不思議がそういえば、あの高槻静子もかつて遼にこう言っ「はんとうの其用くんは違うはずよ」彼女に言わせれば、途の中には別のだれかが潜んでいるらしい。 その「別のだれか」がなんなのか、それはわからない。 だが、自分には現実にその「なにか」があると、遼るようやくいま悟っていた。 (なんだろう?) はじげる炎をながめながら、遼は考えてい炎は右に左にゆれている。 その動きのように、遼の考えばまとまりそうにない。 だが、さいわい手掛かりというか、とっかかりはある。
それが、あの児だ。 あの虎と避うと、なんとなく心が高揚してくるからだ。 そしてそれとは別に、そんな白分を冷静に見つめる「う一人の自分」も、遼は猛烈に意識する。 かその「なに」活すあの虎と会わねばならなそして、できれば決着というか、勝負をつけてみたい。 それが「なにか」を探る一番の近道のよう自分とあの虎とのあぃだに、どんな勝負があるのだろうか? なにしろ相手は虎てある。からだだってRyouの数倍はあるし、まとりに関って勝てるはず遼は焚き火の炎をながめながらだけてはな中 ヨシ歩 がらもそのこを やはり勝負となれば、勝ち負けはつけなりどうなったら、おれはやつに勝ったといえ。 のか? となると、やはりやつを生け捕ることだろ。 うか。 力やスピードで、あの虎に勝てるはずばないからだ。 しかし実際のところ、中学生の自分があの大きな虎を生け排りできるとはとうてい思えなにしろ勝負なのだ。卑1なワナなど使いたくはない。 遼は、頭の中の考えを整理しようと、 早足で山の斜面を駆けおりた。 斜面を下りおえると、まばらな濯木の林がつづき、それを抜げると、野草のわずかな隙聞をのうように道のようなものが見えてきた。 (けものみちか/) 途はそのけるのみらに足を踏み入れると、のるめた。 (-もしかしたら、やつの狼跡が,) 足跡をたしかめるように、のっくのと少い一本の杉の大 。 そのけものみちをのくと が遼の日に飛び込んできた。 その杉の大樹は周囲の木々を圧倒するように立ちはだかっている。 それが途の日にはまるです護神のように映(よし、あの杉の木を使わう!) 直親的に思った。 (どうたって!) などということは、この少年は老えない。 決めてから考えるだちだった。 あの高槻静子が指摘するのは、まさしく述のそういうところなのだが、いまの彼はまだそこまでは気づいていなかった。 とにかくその杉の木に界って、中程に張り出した太い枝にまたがってみた。 そこから遼は下を見た。 こうして木の上から下界を見わたすと、 見慣れた風景も変わって見える。なんでも筋単にできそうな気分になった。 下の地面までは一0メートルはあろうか。 地面はやわらかそうだから、飛び下りてもケーガはなさそうである。 (さて、どうするか?) 遼は枝にまたがったまま、幹の部分に背中をあずけた。
枝葉のあいだからもれてくる日の光がまぶ遼は背中の部分になにかを感じだ。 ロープの束だった。 (2うだ、これを使わう。これで投げ細を作って、やつの首に掛ける。そして挺子を使っニルーいる) この力法なら、なんとかあの虎を生け捕りさいわい、投げ縄には自信があった。 あとは挺子である。 滑車の拠子を作って、木の枝にロープを二重に掛け、ちょっとした材木と自分を重しにすれば、あの虎も引き上げられる。 滑車は大小、合計十個作った。 そのあいだにロープを通し、頑しの材木と自分の体重を来せると、滑事がカラカラと威勢よく回転した。 試してみると、自分の数倍の3のなら楽に引き上げることができた。
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Post by DawnSanada on Jun 23, 2019 19:53:55 GMT -5
あの虎の体重はどれくらいかはわからぬが、なんとか成算がたった。 あとは「敵」である。 その「敵」はいつ現れるのか。 第一、この木のすぐ下までくるとは限らない。 待つしかなかった。 遼は待った。 根気よく待った。 こういうときのこの少年の根気もそうとうなものである。 まる週間、遼は枝の上で待った。 そして、 その「敵」はついに姿を現した。 のっそりと悠然と、大樹の下まで来た。 遼は、 投げ縄を取り出した。 白い虎は、 そんな遂を知ってか知らずか、すぐ下で立ち止まった。 遼は、投げ縄をかまえた。 (あっー) |となった。 その白い虎はそっと、さりげなく頭を下げだのだ。まるで地面のにおいを喫ぐような姿こうなると、 投げ縄は打てない。頭を地面につけられてしまうと、標的がなくなってしまうからだ。 (やつは、おれのことを知っているのか?!) 遼は、そっと投げ縄のかまえを解いた。 すると、虎はまた頭をそっと持ち上げる。 遼が投げ縄をかまえると、そっと頭を下げそんなことが何回かつづいた。 (ダメだ。やつにはスキがない!) 途はとうとうこの作戦を断念した。投げ縄を元にもどした。 それを待っていたかのように、虎は木の下からゆっくりと去っていた。 その白く大きなからだをながめていると、そう実感しないわけにはいかなかった。 遼は木から下りた。 テントをたたみ、ひとまず下山することにきょうも天気はよょい。真夏の日差しが遼の肌をじりじりと均き、かわいた風が汗をふきとばしていった。 山の中腹の急斜面を下りてゆく途中で、 遼はその男と遇った。 その男は人まな笠で顔をかくし、里業めの倍衣を着ていお (こんな山の中に、、年老いたし鉢のお坊さんと一瞬ちえたが、黒い袖口からスッと出た腕はたくましく、 太い錫杖を一本、握っていた。襟元からのぞぐく胸も張っており、身のこなしにもピリッとしたところがあり、からだ全体から若さがあふれていた。 それでいて、どこか枯れた雰囲気もある。 なにしろ、すがだかだちは行脚僧そのものである。 行脚僧のことは、 芸水ともいう。 文字通り、芸と水。空を行く芸、流れる水のようにどこと定めず、あてもなく歩きまわることから、こう呼んだらしい。 その雲水が遼のすぐ脇を通り抜けていった。 「遼と遇ったことなど、なそぶりだった。 遼のはうに6、その男のにおいは伝わってこない。というより、まるで気配がない。 まさに「無」という感じだった。 どうすれば、ここまで自分のにおい、気配を消し去ることができるのか。 遼は遠去かってゆくその雲水の背中を見送っていた。 それと同味に、ふと思った。 いままでのおれだったら、たとえあの芸水とすれ違ったとしても、そんなことは考えもしなかっただろう。 ところがいま「無」を感じた。 感じることおれは以前のおれよりも、 ちょっとだけ大関オン たのかもしれない。 おそらくあの虎とのことが、おれをひとまわり大きくしたのだ。 「遼はふいに父に会いたくなった。 父にひとまわり成長した自分を見てもらいだいし、 母とのことも訳いてみだい。 父と母とのあいだに本当はなにがあったのか、その真相を明かされても、いまの自分ならもう大丈夫だと思った。 それにそうすることが、あの高槻静子の言「なにか」を探る、もう一つの方法でてあるかもしれないと、遼は考えたのだ。 遼は婆やに父の居所を訊ねた。 「お父さんに会いたい? まあ、 めずらしい婆やば、父のスケジュール表をパラパラと「あら、大変。明日からアフリカに出掛けてしまうわ。今夜は成田のホテルと書いてあるけどー」 「行きます。いまから」
遼はかんたんな準備をすますと、 近くのA駅まで走った。 父と会うために走るなど、いままでの遼には考えられないことだった。 でもこの機会をのがすと、こんどはいつになるかわからない。 父のスケジュールのこともあるが、自分の心変わりのはうがもっと心配だったからだ。 途はA駅から東京までの切符を買って、電車に乗った。 父と会ったら、なにから、 どんなことからをはじめようか。 遠去かってゆく見慣れた景色をながめなが ら、Ryouはそんな)とを考えていた。
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田空港のT ホーテールに着くと述は ロビーから父の鱗太郎に電話をかけた。 夕方の六時前であったが、さいわいにも、鱗太郎はすぐに電話に出た。 「う、述か。 どうしたんだ?」 鱗太郎の口調はいつ6のようにぶっきらばうだった。 rうん、ちょっと話したいことがあってね」 「堀一たい? めずらしいな。いまリだ」 rうん、ロビー、ホテルの」 「わかった。おれもこれから飯食おうと思っでたとり ちうどい い、 緒に食わ問°ロー ると、すぐ右側にレストランがあるから、そて待っててくれ」父の指定したレストランは落ち着いた雰囲気のイタリア料理の店だった。 「滑走路に面した側が広いガラスの窓になっていて、 飛行機の離発脊するところが小さくここなら父ともじっくりと話すことができそうだし、 中学生の遼が一人て入ってゆくのに臆することもなかった。
遼は窓際の席に座ると、ウエートレスにはつれが来るからと、水だけをオーダーした。 (さて、どんな話からはじめようか) 遊ば、者陸してくるジャンボ機を見ながら老えた。 来るときの電車の中で、父との話のきっかけはどうすのか、いろいろ老えてきたつも end of page 44
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Post by DawnSanada on Jun 23, 2019 19:54:25 GMT -5
そうこうするうちに、太郎はた。
いつものようにボサボサの髪に不精ヒゲ、Tシャッにジーンズの軽装だった。 背協をピンと伸ばし、 大股でやってくる鱗太郎を見ていると、とても四十五歳には見えない。まるで青年そのものだった。 「おいおい、遼 こんなところまで、一体なにがあったんだ?」 鱗太郎は席に座るや、ポケットからタオル地のハンカチを取り出し、顔の汁をゴシゴシとめぐった。鱗大郎は生来の汗っかきで、汗をゴンゴシャる姿だけはどうにもいただけな遼はサラダとスバゲッティのボンゴレを、 鱗太郎はビール 「しばらく見ないうちに、ザいボん大きくな。 ったじゃないか」 rうん。お父さんはあいかわらずだね」 「まあな。ところてきょうは一体なんの用があったんだ?」 rうん、お父さんにいろいろと聞いておきたいことがあってわね」 「へえ、めずらしいな」 そんなことを話しているうちに、ウエートレスが注文の品を持ってきた。 「ま、食いながる話そうぜ」 鱗太郎はスパゲッティをズルズルとすすると、ビールをググーッと威勢よく喉にながしこんだ。あいかわらず食欲のほうも、太郎は青年なみだった。そしてマナーも。 でも遼はこういう飾らない鱗太郎が嫌いではない。 母の文子は父とは正反対の上品な女性だったが、彼女5別段、父のそういうところを嫌うている,ふうには見えなかった。 「文子はただニュニュと笑って見ているだけの女性だったような気がする。 たしかに生まれし育ちも正反対のような父だったから、2人の関係が高城静子の推理したようなこと、んまり「離婚」ということになってらなんの,ふしない。
「おいおい、さっきからちっとも食ってねぇじゃねえか」 鱗太郎が自分のフォークで、遼の皿を指しr.えつ、ううん」 遼ば首を横に振ると、あわてて皿のスパゲッティを目の中に放りこんだ。 (親父のこといえねえか) 遊ば水をひとくち飲んでから、ナプキンで口のまわりをのぐった。 「ね、お父さん?」 "Huh?"
「聞きにくいことなんだけど」 「いいって、 気にしねえからスパッと言って鱗太郎はビールをグィと飲みはし、 お代わりを注文しだ。 遊ば思い切って、例の高槻静子の言ったことから訊くことにしだ。 「お父さん、お母さんのこと愛してなかった。 「息子とした父親に説くべきことではなかったかもしれない。それば遼にも十分わかっていた。だが、それでし乱かずにはおれなかっ「なぜだ?」 鱗太郎は顔色5変えずに、遼に聞きか·えし鱗太郎としたら、ながいあいだ息子と離れて暮らしているので、わりあいサラッと聞きながせるところがあるかもしれない逆に遼に、なぜそういう質問をするんだと切り返しできた。 うん、 それはだね、お母さんが死んだとき「だがら、おれが文子をしてなかったというのかい、Ryouよ?」 太郎はタバユを一本取り出すと火をつけ、フウッと大きく吸いこんんだ。 「ううん、それだけじゃない。でもー」 「人間はな、悲しいから涙を見せるとはかぎらねえ」 「でもふつうは泣くよ」 「おお、泣くさ。でも涙を他人に見せないやつもいる」
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Post by DawnSanada on Jun 23, 2019 19:54:55 GMT -5
「お母さんがかわいそうと思わなかったの、お父さんは? 「かわいそう? 文子がか?」 fうん。だってあんな若くしてこの世を去っでいったんだもん」 「vうかねえ」 遼は第太郎の顔を真正面から見だ。父の表情はまったく変わらない。 自信があ·ふれてい「おれは文子のやつがかわいそうだなんて思つたことば一度ねえよ」 「まあ、聞け。人間はな、この世にオギャーと生まれてきたからには、一度は必ず死ぬん。 だ。おれも、おまえだっていまはまだ若いがいつか必ず死の。それが人間だ。長生きしたといったって、 ホンの五年、十年の差にすぎねえ。いや、たとえ二十年、よぶんに生きたとしたって不幸なやつば不幸だ。人間はな、長生きしたやつがしあわせとはかoらねえん「れは、ぼくもなんとなくわがるsうな気がするよ。 でも、それとお母るんの早過ぎる死はベつのことだと思うんだけど」 「「いーや、おまえのお母さんはしあわせだった」 鱗太郎はしつかりし羅の目を見た「.なたと田じ一フ?" ". . ." Ryouは、わカらないというように、汽を横に振った。 「だってお母さんは、おれやおまえに看取られて死んだんだ。自分の愛するものに看取られて死んだんだ。しあわせに決まってるじゃわえか」 「お母さんが、お父さんに愛されていたら」
「最初の話にもどるけど、お父さんはお母さんのこと、愛してたの?」 「ああ、 愛していださ」 「ボント?」 「なぜだ? なぜそんなことを自分の父親に私く?」 「お母さんの写真さーー」 遼は、高槻静子が指摘した母の写真のことを鱗太郎に話した。 高槻静子は、遼のアルバムを見るなり、こう言ったのだ。 「あら、あなたの御両親、離婚なさったの?」 その高槻静子の言ったことを遼が話すと、鱗太郎は、なぜだ、というように身を乗り出した。 「離婚? おれと文子が?」 「うん、彼女はおれのアルバムを見るなり、そう言ったんだ」 「その彼女はおまえのアルバムのなにを見たんだ?」 「おれのアルバム、あれに貼ってある写真、とくにおれの小さいころのは、お父さんが貼ってくれたんだよね?」 「ちあそう- 「それを、彼女が言うんだ」 one枚しかないって」 ". . . " 「ほら、あのアルバムには、お母さんの写真がたったの一枚しかなかっただろう、 幼いおれを抱いた」 「うん」 「じゃあ、お父さんもそれは認めるんだね」 「ああ、そうがよ」 「それを彼女がおかしいって言うんだ。だって技女も言ったけど、お父さんはカメラマン"
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Post by DawnSanada on Jun 23, 2019 19:55:47 GMT -5
いか。それなのにおれのアルバムには、だっだの一枚しか、 お母さんの写真はなかったん済だ。彼女じゃないけど、お父さんがお母さん 済を愛してなかったと、おれもホンのちょっとばかり考えた時期もあったよ。正直言って」 『いまは?」 「いまはもちろん、そんなこと考えたくないさ。でも疑問は疑問だ。なぜなのか、息子として知りたいんだ」 遼はいつのまにか興奮していた。つい詰間gUSていた。 「わかったよ、。しかしおまえ6大人になったなあ」 鱗太郎は遼の顔をたしかめるように、もういちど真正面から見た。 「じゃあ、 その話はおれの室に行ってからゆっくりと話そう。どうせ今夜は泊まってゆくんだろう」 鱗太郎は伝票をつかしと、デーブルを立った。 遼る鱗太郎のあとにつづいた。 鱗太郎の室は、そのホテルの最上階にあった。 その室の窓のレースのカーテン越しからも、着睦してくる飛種の明かりの明減がかすガに見えていた。 山力いあ「遼と鱗太郎はべッドの脇のイスにって座った。日をびら〕 鱗-太郎はタバュを一-服してから一 「なあ、遼よ、おまり、お母さんの顔、慮えてるか?・」 「い+りろんさ」 「の顔じゃねえぞ。お母さんのはんとうの顔だ。お母さんとの、なにか思い出、 笑った顔でも怒った顔でもいい」 r覚えている。 顔もことばも。そうだ、荒話も憶えてるよ」 母は遼に、よく童話を話してくれた。 それは、やさしい心の持ち主のタケルという少年の物語だった。 そのタケルがふとしたことから恐ろしい剣。 を手に入れ、村の人だちを救うために山賊を倒してしまうのだ。ところが、そんな村人だちが、凱旋してきたタケルを冷たい眼でなかめ、最後には仲間外れにしてしまう。 そんなストーリーを、母はやさしく話してくれたものだ。 rだったら、それでいいじゃねぇか」 「だってそうだろう。自分の心のなかの思い出にまさるもんはねぇ。おれはな、写真より-0そんな思い出のはうを人切にしたいね」 「でも、お父さんばカメラマンだろう。自分で撮った写真より、記憶のはうが大切なの。 おれ、そんなのわからない」
遼は迫るように鱗太郎のほ一フに身を乗り出しご。 魲人郎は、れな避けるよ一フ。に」ちあがるし」、窓のをごろまて行き一阯一すスのカーテンをサ一言い身な、つ(窓の外にはばんやりとした暗開が見えてい「な、「ゞ~よ、よ0文力」 戸彎。ビしてしまってかと気がついたんだド・おれの撮「つ、てい=たのは(。 「くんのチじ や 」 「ああ。おれが撮りたかった写真じゃあねぇ。 おれが撮った文子の写真だってそうだ。文子のはんとうのすがたを写してたとはいえねぇ。 少なくとも、おれの思い出のなかの文子とは近う。そう思ったとだん、おれは文すの写真をすべてアルバムから外してしまった。 文と見ないつsりだった。見れば、息い出」 がうすくなっていくような気がしたんだ」 「じゃあ、おれと写ってるあの一枚ば」 「sしも、おまえがお母さんのことをだ、ぜんぜん憶えてなかったら困るだろ。それて枚だけは残しておいたんだ」 「心のなかにしっかりとしまっておけば、その文子は、おれの心のなかて永遠に生きつづけるんだ」
「遼、おまえも、 写真なんかよりも自分の心のなかのお母さんのはうがずうっといいと思かんか?」 rうん、それはそうだけど」 うい選も同調してしまった。 「おればな、文子が死んでしまってからは、3うあくせく都念の雑路のなかで働くのがいやになっちまったんだ。これからは自分の思を下げたって是りんだろう…」 窓の外をながめる鱗太郎の背中がかすかにふるえていた。 (2ういえばこの父の背中には記憶がある。いつだったかも同じような背中を見たような気がする。 だが、このときの途は、それがいっだったのか、なんだったのか、思い出すことはできたかった。 そうあと、二人はボソボソと話をつづけたかい母のことにはそれ以上の進展はなが~つお。 をはいつのまにかべッドて眠りについて、〔明、目がめるど、となりのべ「う鱗太・川のすかたはなか」っ「たべ山ッドの脇のデズクにかんなんな凶モが=第物〕よく眠っ'ているよラなのて、先にゆぐれから行ぐところはアフリカの荒野だ今度はいっ会えるかわからんか、おまえも一これて勉学にんてくー
鱗太郎
鱗太郎らしいメモだった。 遼はホテルを出た。 空港の離発着のロビーまで行って、鱗太郎の便を調べてみた。 だが、父の地行機はもうすでに出発したあしかたない。途は山梨の家までらどること途が空港の女関に向かいかけたときだ。 背中から声が聞こえてきた。 遼は振り向いて、あっとなった。 そこには、あの店槻静子が立っていたからだ。 突然のことに、遼はことばにつまってしまった。 高槻静子はにっこりと首を横に振って否定J だが彼女は大きなトランクを引きずっていて、まるで海外旅行かなにかの帰りのような
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Post by DawnSanada on Jun 23, 2019 19:56:14 GMT -5
格好である。 「こっちに帰ってきたの」 「こっちって ?」 「わたし向こうに、あ、いまロンドンに住んてんの」 たしか卒業式に会ったときには、彼女は東京の中学校に入ると言っていたではないか。 「Nう。たしか、真田くんとこのまえ会ったとき、卒業式の日だったわね。あのときは、わたし、東京の中学に行くって言ったんだけど、いろいろあってね…」 そのことは彼女もよく憶えていた。 「ね、 どこかでお茶飲まない」 高槻静子はそう言って、トランクを引きずっていった。 彼女は変わった。かつての麗人の雰囲気はまるでない。明るくなったし、よくしやべる-うにもな って一方的にしゃべりまくる高槻静子に戸惑いながらも、 遼は彼女につづいた。
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遼と高槻静子は空港内のフルーツパーラーに入った。 すきとおったがラスのテーブルで向かいあうと、高槻静子はいたずらっぱい笑いを口元に浮かべて途の顔を見た。 「ね、真田くん、わたし、どうしてロンドンまるでクイズのような口調だった。 あれ以来この高槻静子とは会ってないのだ。 遼にわかるばずはない。 だが述し、応、考える·ふりをした。
「そうだねえ。。。」 しかし荅が出てくるはずはないのだ。 「じつはねー!」 と自分から解答を言いはじめた。 「わたしね、あの日、卒業式の日、真田くんの家に行ったでしょう?」 「あれね、真田くんにはお母さんがいないって人から聞いてたからなの。 真田くん、どんな幕らししてんのかなあって、ちょっぴり見てみたかったのね。それで真田くんのうちに行ったの。あのときば真田くんもわたしと同じ境遇だと思ったのよ」 「同じ境遇?」 rそう、あのとき、じつはわたしの父と母離婚しそうだったの。ううん、いまも元にはもどっていないわ。別居中ですもん、東京とロンドンで」 「それで、あんな山の小学校へ転校してきたくだ?」 rうん。おじいちゃんたちがいたんでねまえにもちょっとだけ話したことあるか しれないけど、 父はロンドンの大使館にいるの」 rうん、 聞いたよ」
「て、母のはうが東京なの。 デザイナーやってるわ。いるロンドンには行きたがらないのね。なわけて夫婦仲がだんだん悪くなって、離婚話が進行してたの。 当然、わたしをどっ取るかで、いろいろあったわよね。それたし、一時あの山梨の学校に行ってだの。だってわたしに決めろっていうんですもん。 でもそんなこと、わたしには決められないわ.そうでしょう?」 「わかるよ」 遼は一息入れようと、トマトジュースのグラスを取った。 高槻静子は、日分のレモンティには最初にけっこう売れっ子らしくてね、ダのちょっと口をつけただけで、話しつづけていでもわたし、最初は東京の母と一緒に幕そうと思っていたの。もちろん父のこと嫌いじゃなかったけど、でも父は若い時からずっと外国で生活してたでしょ、それも旅から旅の忙しい生活、そんな生活を母やわたしに押しっけてきたんですもん。 母にだって母の人生があるし、このヘんで母の言うこともきてあげるべきだと思っていたのね、わたし。 でもあの兜は不思談 「兜?ああ、うちでかぶ、高槻静子は、あのとき遼の家の蔵て古い兜をかぶったのだ。 r.ええ。 あれをかぶったらなにか、議と自分が落ち着いたのね。まるで高い山の上にでも登ったみたいな、物事を上から冷静に、客観的に見れるような気分になったのね」 riうん、わかるわかる」 遼もあの杉の木に登ったとき、あの白虎に勝てるような気分になった。おそらく高槻静子6それと似たような気持になったのであろう。
「それであの写真よ」 「ばくの母だね?」 r ええ。あれを見たときは、ほんとうにピーンときたわ」 「でもその直感ははずれたね。 ぱくの父と母は離婚なんかしてなかったんだから」 「真田くんからお父さんとお母さんの話を聞いてたら、それはすぐにわかっだわ」 「なぜ?」 「だって真田くん、ちょっぴりムキになって二人をかばうんですもん。 ああ、真田くんばお父さん、お母さんにかわいがられてたんだなあって思ったわ。それでわたし、大体わかってきたの。真田くんの御両親のこと。真くんのお父きんはきっとお母さんのこと愛してらしたんだなあって。2う思ったられ、わたしもきたゆ。
「ああ、そういえばあのとき、きみ、ぼくの顔見てちょっぴり微笑んだんだよね。あの-きだろう、決心したの?」 「わたし、そんなに笑った?」 「笑ったさ。ちょ っびりだけどね」 あのとき高視静子は遼の話を聞いて、なぜかちょっびりと微笑んだのだ。遼はそのの彼女の笑顔をいまでもよく憶えている。 でもあのとき、なにな決ししたんがい」 遼は残っていた。ンュースをストローでジュッと吸い込んだ。 r真田くんと一緒よ」 「ぱくと? 」 「そう。わたしもね、結局は二人とも好きなのよね。だからわたしが、二人を仲直りさせてやろうって、そう決心したの」 「仲直り.てもどうやって?」 「父と母のあいだを行ったり来たりすることに決めたの」 「行ったり来たり?」
「ええ。 最初の一年は父のいるロ ンドン、次の一年は母のいる東京ってね。そしていつかわたしの力で両親を仲直りきせてみよう、そう決心したのよ」 それだけ話すと、高槻静子はカップに残っていたレモンティを一気に飲みほした。 遼に言いたいだけのことを話すと、高槻静子はさすがにいままての胸のつかえが収れたらしい。遼のはうの話はなに~聞こうともせ「わたし、夏休み中は赤坂の母のところにいるの。ね、真田くん」 "こんど遊びに来て?」 "うん。必ず行く」 " バングン味配E く
「きっとを」 先に立ってグソグソ歩いてゆく高槻静子のすがたこな、もゆの「?人」よな-
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Post by DawnSanada on Jun 23, 2019 19:56:49 GMT -5
なっていたが、Ryouはこういう彼女のほうが好きだった。それになといっても、これが彼女の本当のすがたのような気がした。 (おそらくは、あの小学校にいたときの高槻静子は、自分なりに少々背伸びしていたに違いない) 遼は、そんなことを思いながら、高槻静子の背中をながめていた。 いま高槻静子のその背中には、 悩みのかけらはども見えない。 (それにひきかえ と遼は、さきはど別れた父、鱗太郎の背中を思い出していた。 あの父の背中、かすかにふるえていたよう突然、遼は思い出した。 (あのときの背中だ。あのときの背中と一緒だ!) あのとー 母が死んだときだ。 母は死ぬ間際に、幼い遼になにか言った。 いまの遼は、 その母のことばをまるで憶.えていない。
だがそのとき、鱗太郎もばにいた。そしてそれを聞いていた。 そして母は死んだ。 議大郎はふいに意に背中を向けた。 AVして窓かし外を見た。 そのときの背中、そのときの背中が! そのときの鱗太郎の背中ち、たしかにふるえていた。 悲しみもあっただろう。 でもそれだけだったのだろうか? 鱗太郎は母からなにを聞いたのか? 遼は、遠くの空を見た。 父の飛行機はしうとっくに飛び立ってしまっている。 こんど父と会えるのは、いつの日か、わからない。
(父は、母からなにを聞いたのだ!?!) 遼は高槻静子とわかれてからも、そのことばかりを考えていた。
(以下次号)
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Post by DawnSanada on Jun 24, 2019 23:14:54 GMT -5
It's not perfect, but at least it's SOME kind of copy of the text on these pages.
4 おいかわらず、真田遼の山登りはつづいて~が体みのときなどは、ずっといりになることもめずらしくなかった。 ーの明るいうちは岩壁を登り、与野を歩く「イ0しトアントを、り,メシを次新リた小阜一な」るい力「遼の舸に「,は夜、テントの前て災き火をご一「真の赤な炎をながめていると、彼の頭のなかには年限のイメージが交錯してくる。 純に一本化すればするはど、このイメージがくらんてくるような.メカしたたカ、あの白い虎と出遇ってからの遼はそラてはなかった。 すぐにイメシか停しと-フしても考-んることカ、あるカ・可にい一つ、てしま・フよ・フになっ。ていた。 虎も、最ガは、遼の目の前を横切るたんなる「白いもの」にすぎなかった。 (なんだろう?) と気にはしていたが、なかなかその実体をつかむことはできなかった。 それが·いに遼の前に、その姿を現した。 大鷲との闘いのときだ。 遼は大鷲との力比べに負けて、(あわや となった。 そのあわやのときに、その白い虎は突然、一現れ、谷底いっばいに響きわたるような声で乳えた。 あのときあの白い虎の砲略がなかったら、遼はどうなっていたかわからない。 おそらく力尽きて谷底へ転落したか、大鷲につれ去られたか、したに違いない。 それを、あの白い虎が救ってくれた。 まるで遂を助けるために登場したようにさえ思。えた。 かといってそのときは、たんなる一人の少年と虎である。 遼は身構えて、 虎をにらんだ。 (米るなら来い!) というぐらいの気持ちであった。 だがそのときはどういうわけか、虎はおとなしく去っていった。途に向かってくる気配はまるでなかった。 それからも遊はただびたび、その虎と出遇っ虎はいつし、まるで遼の行手を阻むかのように、スッと現れるのだった。 そのたびに、 遼は緊張した。キッと、虎をにらみつけた。 すると、 虎は決まって題を返し、おとなしく去っていくのだ。 そんな出遇いが数回つづいた。 そうなると、不思談だ。 今度は遇わないと気になる。山を歩いていても、つい遭うことを期待するようになっていた。 Ryouうと、ホッとするような気持になった。 それに最初のときから、なぜか、あの虎にル心怖感はなかった。いつも冷静に対崎した。 だが考えてみると、そんな自分が不思議がそういえば、あの高槻静子もかつて遼にこう言っ「はんとうの其用くんは違うはずよ」彼女に言わせれば、途の中には別のだれかが潜んでいるらしい。 その「別のだれか」がなんなのか、それはわからない。 だが、自分には現実にその「なにか」があると、遼るようやくいま悟っていた。 (なんだろう?) はじげる炎をながめながら、遼は考えてい炎は右に左にゆれている。 その動きのように、遼の考えばまとまりそうにない。 だが、さいわい手掛かりというか、とっかかりはある。 それが、あの児だ。 あの虎と避うと、なんとなく心が高揚してくるからだ。 そしてそれとは別に、そんな白分を冷静に見つめる「う一人の自分」も、遼は猛烈に意識する。 かその「なに」活すあの虎と会わねばならなそして、できれば決着というか、勝負をつけてみたい。 それが「なにか」を探る一番の近道のよう自分とあの虎とのあぃだに、どんな勝負があるのだろうか? なにしろ相手は虎てある。からだだってRyouの数倍はあるし、まとりに関って勝てるはず遼は焚き火の炎をながめながらだけてはな中 ヨシ歩 がらもそのこを やはり勝負となれば、勝ち負けはつけなりどうなったら、おれはやつに勝ったといえ。 のか? となると、やはりやつを生け捕ることだろ。 うか。 力やスピードで、あの虎に勝てるはずばないからだ。 しかし実際のところ、中学生の自分があの大きな虎を生け排りできるとはとうてい思えなにしろ勝負なのだ。卑1なワナなど使いたくはない。 遼は、頭の中の考えを整理しようと、 早足で山の斜面を駆けおりた。 斜面を下りおえると、まばらな濯木の林がつづき、それを抜げると、野草のわずかな隙聞をのうように道のようなものが見えてきた。 (けものみちか/) 途はそのけるのみらに足を踏み入れると、のるめた。 (-もしかしたら、やつの狼跡が,) 足跡をたしかめるように、のっくのと少い一本の杉の大 。 そのけものみちをのくと が遼の日に飛び込んできた。 その杉の大樹は周囲の木々を圧倒するように立ちはだかっている。 それが途の日にはまるです護神のように映(よし、あの杉の木を使わう!) 直親的に思った。 (どうたって!) などということは、この少年は老えない。 決めてから考えるだちだった。 あの高槻静子が指摘するのは、まさしく述のそういうところなのだが、いまの彼はまだそこまでは気づいていなかった。 とにかくその杉の木に界って、中程に張り出した太い枝にまたがってみた。 そこから遼は下を見た。 こうして木の上から下界を見わたすと、 見慣れた風景も変わって見える。なんでも筋単にできそうな気分になった。 下の地面までは一0メートルはあろうか。 地面はやわらかそうだから、飛び下りてもケーガはなさそうである。 (さて、どうするか?) 遼は枝にまたがったまま、幹の部分に背中をあずけた。 枝葉のあいだからもれてくる日の光がまぶ遼は背中の部分になにかを感じだ。 ロープの束だった。 (2うだ、これを使わう。これで投げ細を作って、やつの首に掛ける。そして挺子を使っニルーいる) この力法なら、なんとかあの虎を生け捕りさいわい、投げ縄には自信があった。 あとは挺子である。 滑車の拠子を作って、木の枝にロープを二重に掛け、ちょっとした材木と自分を重しにすれば、あの虎も引き上げられる。 滑車は大小、合計十個作った。 そのあいだにロープを通し、頑しの材木と自分の体重を来せると、滑事がカラカラと威勢よく回転した。 試してみると、自分の数倍の3のなら楽に引き上げることができた。 あの虎の体重はどれくらいかはわからぬが、なんとか成算がたった。 あとは「敵」である。 その「敵」はいつ現れるのか。 第一、この木のすぐ下までくるとは限らない。 待つしかなかった。 遼は待った。 根気よく待った。 こういうときのこの少年の根気もそうとうなものである。 まる週間、遼は枝の上で待った。 そして、 その「敵」はついに姿を現した。 のっそりと悠然と、大樹の下まで来た。 遼は、 投げ縄を取り出した。 白い虎は、 そんな遂を知ってか知らずか、すぐ下で立ち止まった。 遼は、投げ縄をかまえた。 (あっー) |となった。 その白い虎はそっと、さりげなく頭を下げだのだ。まるで地面のにおいを喫ぐような姿こうなると、 投げ縄は打てない。頭を地面につけられてしまうと、標的がなくなってしまうからだ。 (やつは、おれのことを知っているのか?!) 遼は、そっと投げ縄のかまえを解いた。 すると、虎はまた頭をそっと持ち上げる。 遼が投げ縄をかまえると、そっと頭を下げそんなことが何回かつづいた。 (ダメだ。やつにはスキがない!) 途はとうとうこの作戦を断念した。投げ縄を元にもどした。 それを待っていたかのように、虎は木の下からゆっくりと去っていた。 その白く大きなからだをながめていると、そう実感しないわけにはいかなかった。 遼は木から下りた。 テントをたたみ、ひとまず下山することにきょうも天気はよょい。真夏の日差しが遼の肌をじりじりと均き、かわいた風が汗をふきとばしていった。 山の中腹の急斜面を下りてゆく途中で、 遼はその男と遇った。 その男は人まな笠で顔をかくし、里業めの倍衣を着ていお (こんな山の中に、、年老いたし鉢のお坊さんと一瞬ちえたが、黒い袖口からスッと出た腕はたくましく、 太い錫杖を一本、握っていた。襟元からのぞぐく胸も張っており、身のこなしにもピリッとしたところがあり、からだ全体から若さがあふれていた。 それでいて、どこか枯れた雰囲気もある。 なにしろ、すがだかだちは行脚僧そのものである。 行脚僧のことは、 芸水ともいう。 文字通り、芸と水。空を行く芸、流れる水のようにどこと定めず、あてもなく歩きまわることから、こう呼んだらしい。 その雲水が遼のすぐ脇を通り抜けていった。 「遼と遇ったことなど、なそぶりだった。 遼のはうに6、その男のにおいは伝わってこない。というより、まるで気配がない。 まさに「無」という感じだった。 どうすれば、ここまで自分のにおい、気配を消し去ることができるのか。 遼は遠去かってゆくその雲水の背中を見送っていた。 それと同味に、ふと思った。 いままでのおれだったら、たとえあの芸水とすれ違ったとしても、そんなことは考えもしなかっただろう。 ところがいま「無」を感じた。 感じることおれは以前のおれよりも、 ちょっとだけ大関オン たのかもしれない。 おそらくあの虎とのことが、おれをひとまわり大きくしたのだ。 「遼はふいに父に会いたくなった。 父にひとまわり成長した自分を見てもらいだいし、 母とのことも訳いてみだい。 父と母とのあいだに本当はなにがあったのか、その真相を明かされても、いまの自分ならもう大丈夫だと思った。 それにそうすることが、あの高槻静子の言「なにか」を探る、もう一つの方法でてあるかもしれないと、遼は考えたのだ。 遼は婆やに父の居所を訊ねた。 「お父さんに会いたい? まあ、 めずらしい婆やば、父のスケジュール表をパラパラと「あら、大変。明日からアフリカに出掛けてしまうわ。今夜は成田のホテルと書いてあるけどー」 「行きます。いまから」 遼はかんたんな準備をすますと、 近くのA駅まで走った。 父と会うために走るなど、いままでの遼には考えられないことだった。 でもこの機会をのがすと、こんどはいつになるかわからない。 父のスケジュールのこともあるが、自分の心変わりのはうがもっと心配だったからだ。 途はA駅から東京までの切符を買って、電車に乗った。 父と会ったら、なにから、 どんなことからをはじめようか。 遠去かってゆく見慣れた景色をながめなが ら、Ryouはそんな)とを考えていた。
5
田空港のT ホーテールに着くと述は ロビーから父の鱗太郎に電話をかけた。 夕方の六時前であったが、さいわいにも、鱗太郎はすぐに電話に出た。 「う、述か。 どうしたんだ?」 鱗太郎の口調はいつ6のようにぶっきらばうだった。 rうん、ちょっと話したいことがあってね」 「堀一たい? めずらしいな。いまリだ」 rうん、ロビー、ホテルの」 「わかった。おれもこれから飯食おうと思っでたとり ちうどい い、 緒に食わ問°ロー ると、すぐ右側にレストランがあるから、そて待っててくれ」父の指定したレストランは落ち着いた雰囲気のイタリア料理の店だった。 「滑走路に面した側が広いガラスの窓になっていて、 飛行機の離発脊するところが小さくここなら父ともじっくりと話すことができそうだし、 中学生の遼が一人て入ってゆくのに臆することもなかった。 遼は窓際の席に座ると、ウエートレスにはつれが来るからと、水だけをオーダーした。 (さて、どんな話からはじめようか) 遊ば、者陸してくるジャンボ機を見ながら老えた。 来るときの電車の中で、父との話のきっかけはどうすのか、いろいろ老えてきたつもそうこうするうちに、太郎はた。 いつものようにボサボサの髪に不精ヒゲ、Tシャッにジーンズの軽装だった。 背協をピンと伸ばし、 大股でやってくる鱗太郎を見ていると、とても四十五歳には見えない。まるで青年そのものだった。 「おいおい、遼 こんなところまで、一体なにがあったんだ?」 鱗太郎は席に座るや、ポケットからタオル地のハンカチを取り出し、顔の汁をゴシゴシとめぐった。鱗大郎は生来の汗っかきで、汗をゴンゴシャる姿だけはどうにもいただけな遼はサラダとスバゲッティのボンゴレを、 鱗太郎はビール 「しばらく見ないうちに、ザいボん大きくな。 ったじゃないか」 rうん。お父さんはあいかわらずだね」 「まあな。ところてきょうは一体なんの用があったんだ?」 rうん、お父さんにいろいろと聞いておきたいことがあってわね」 「へえ、めずらしいな」 そんなことを話しているうちに、ウエートレスが注文の品を持ってきた。 「ま、食いながる話そうぜ」 鱗太郎はスパゲッティをズルズルとすすると、ビールをググーッと威勢よく喉にながしこんだ。あいかわらず食欲のほうも、太郎は青年なみだった。そしてマナーも。 でも遼はこういう飾らない鱗太郎が嫌いではない。 母の文子は父とは正反対の上品な女性だったが、彼女5別段、父のそういうところを嫌うている,ふうには見えなかった。 「文子はただニュニュと笑って見ているだけの女性だったような気がする。 たしかに生まれし育ちも正反対のような父だったから、2人の関係が高城静子の推理したようなこと、んまり「離婚」ということになってらなんの,ふしない。 「おいおい、さっきからちっとも食ってねぇじゃねえか」 鱗太郎が自分のフォークで、遼の皿を指しr.えつ、ううん」 遼ば首を横に振ると、あわてて皿のスパゲッティを目の中に放りこんだ。 (親父のこといえねえか) 遊ば水をひとくち飲んでから、ナプキンで口のまわりをのぐった。 「ね、お父さん?」 "Huh?" 「聞きにくいことなんだけど」 「いいって、 気にしねえからスパッと言って鱗太郎はビールをグィと飲みはし、 お代わりを注文しだ。 遊ば思い切って、例の高槻静子の言ったことから訊くことにしだ。 「お父さん、お母さんのこと愛してなかった。 「息子とした父親に説くべきことではなかったかもしれない。それば遼にも十分わかっていた。だが、それでし乱かずにはおれなかっ「なぜだ?」 鱗太郎は顔色5変えずに、遼に聞きか·えし鱗太郎としたら、ながいあいだ息子と離れて暮らしているので、わりあいサラッと聞きながせるところがあるかもしれない逆に遼に、なぜそういう質問をするんだと切り返しできた。 うん、 それはだね、お母さんが死んだとき「だがら、おれが文子をしてなかったというのかい、Ryouよ?」 太郎はタバユを一本取り出すと火をつけ、フウッと大きく吸いこんんだ。 「ううん、それだけじゃない。でもー」 「人間はな、悲しいから涙を見せるとはかぎらねえ」 「でもふつうは泣くよ」 「おお、泣くさ。でも涙を他人に見せないやつもいる」 「お母さんがかわいそうと思わなかったの、お父さんは? 「かわいそう? 文子がか?」 fうん。だってあんな若くしてこの世を去っでいったんだもん」 「vうかねえ」 遼は第太郎の顔を真正面から見だ。父の表情はまったく変わらない。 自信があ·ふれてい「おれは文子のやつがかわいそうだなんて思つたことば一度ねえよ」 「まあ、聞け。人間はな、この世にオギャーと生まれてきたからには、一度は必ず死ぬん。 だ。おれも、おまえだっていまはまだ若いがいつか必ず死の。それが人間だ。長生きしたといったって、 ホンの五年、十年の差にすぎねえ。いや、たとえ二十年、よぶんに生きたとしたって不幸なやつば不幸だ。人間はな、長生きしたやつがしあわせとはかoらねえん「れは、ぼくもなんとなくわがるsうな気がするよ。 でも、それとお母るんの早過ぎる死はベつのことだと思うんだけど」 「「いーや、おまえのお母さんはしあわせだった」 鱗太郎はしつかりし羅の目を見た「.なたと田じ一フ?" ". . ." Ryouは、わカらないというように、汽を横に振った。 「だってお母さんは、おれやおまえに看取られて死んだんだ。自分の愛するものに看取られて死んだんだ。しあわせに決まってるじゃわえか」 「お母さんが、お父さんに愛されていたら」 「最初の話にもどるけど、お父さんはお母さんのこと、愛してたの?」 「ああ、 愛していださ」 「ボント?」 「なぜだ? なぜそんなことを自分の父親に私く?」 「お母さんの写真さーー」 遼は、高槻静子が指摘した母の写真のことを鱗太郎に話した。 高槻静子は、遼のアルバムを見るなり、こう言ったのだ。 「あら、あなたの御両親、離婚なさったの?」 その高槻静子の言ったことを遼が話すと、鱗太郎は、なぜだ、というように身を乗り出した。 「離婚? おれと文子が?」 「うん、彼女はおれのアルバムを見るなり、そう言ったんだ」 「その彼女はおまえのアルバムのなにを見たんだ?」 「おれのアルバム、あれに貼ってある写真、とくにおれの小さいころのは、お父さんが貼ってくれたんだよね?」 「ちあそう- 「それを、彼女が言うんだ」 one枚しかないって」 ". . . " 「ほら、あのアルバムには、お母さんの写真がたったの一枚しかなかっただろう、 幼いおれを抱いた」 「うん」 「じゃあ、お父さんもそれは認めるんだね」 「ああ、そうがよ」 「それを彼女がおかしいって言うんだ。だって技女も言ったけど、お父さんはカメラマン" いか。それなのにおれのアルバムには、だっだの一枚しか、 お母さんの写真はなかったん済だ。彼女じゃないけど、お父さんがお母さん 済を愛してなかったと、おれもホンのちょっとばかり考えた時期もあったよ。正直言って」 『いまは?」 「いまはもちろん、そんなこと考えたくないさ。でも疑問は疑問だ。なぜなのか、息子として知りたいんだ」 遼はいつのまにか興奮していた。つい詰間gUSていた。 「わかったよ、。しかしおまえ6大人になったなあ」 鱗太郎は遼の顔をたしかめるように、もういちど真正面から見た。 「じゃあ、 その話はおれの室に行ってからゆっくりと話そう。どうせ今夜は泊まってゆくんだろう」 鱗太郎は伝票をつかしと、デーブルを立った。 遼る鱗太郎のあとにつづいた。 鱗太郎の室は、そのホテルの最上階にあった。 その室の窓のレースのカーテン越しからも、着睦してくる飛種の明かりの明減がかすガに見えていた。 山力いあ「遼と鱗太郎はべッドの脇のイスにって座った。日をびら〕 鱗-太郎はタバュを一-服してから一 「なあ、遼よ、おまり、お母さんの顔、慮えてるか?・」 「い+りろんさ」 「の顔じゃねえぞ。お母さんのはんとうの顔だ。お母さんとの、なにか思い出、 笑った顔でも怒った顔でもいい」 r覚えている。 顔もことばも。そうだ、荒話も憶えてるよ」 母は遼に、よく童話を話してくれた。 それは、やさしい心の持ち主のタケルという少年の物語だった。 そのタケルがふとしたことから恐ろしい剣。 を手に入れ、村の人だちを救うために山賊を倒してしまうのだ。ところが、そんな村人だちが、凱旋してきたタケルを冷たい眼でなかめ、最後には仲間外れにしてしまう。 そんなストーリーを、母はやさしく話してくれたものだ。 rだったら、それでいいじゃねぇか」 「だってそうだろう。自分の心のなかの思い出にまさるもんはねぇ。おれはな、写真より-0そんな思い出のはうを人切にしたいね」 「でも、お父さんばカメラマンだろう。自分で撮った写真より、記憶のはうが大切なの。 おれ、そんなのわからない」 遼は迫るように鱗太郎のほ一フに身を乗り出しご。 魲人郎は、れな避けるよ一フ。に」ちあがるし」、窓のをごろまて行き一阯一すスのカーテンをサ一言い身な、つ(窓の外にはばんやりとした暗開が見えてい「な、「ゞ~よ、よ0文力」 戸彎。ビしてしまってかと気がついたんだド・おれの撮「つ、てい=たのは(。 「くんのチじ や 」 「ああ。おれが撮りたかった写真じゃあねぇ。 おれが撮った文子の写真だってそうだ。文子のはんとうのすがたを写してたとはいえねぇ。 少なくとも、おれの思い出のなかの文子とは近う。そう思ったとだん、おれは文すの写真をすべてアルバムから外してしまった。 文と見ないつsりだった。見れば、息い出」 がうすくなっていくような気がしたんだ」 「じゃあ、おれと写ってるあの一枚ば」 「sしも、おまえがお母さんのことをだ、ぜんぜん憶えてなかったら困るだろ。それて枚だけは残しておいたんだ」 「心のなかにしっかりとしまっておけば、その文子は、おれの心のなかて永遠に生きつづけるんだ」 「遼、おまえも、 写真なんかよりも自分の心のなかのお母さんのはうがずうっといいと思かんか?」 rうん、それはそうだけど」 うい選も同調してしまった。 「おればな、文子が死んでしまってからは、3うあくせく都念の雑路のなかで働くのがいやになっちまったんだ。これからは自分の思を下げたって是りんだろう…」 窓の外をながめる鱗太郎の背中がかすかにふるえていた。 (2ういえばこの父の背中には記憶がある。いつだったかも同じような背中を見たような気がする。 だが、このときの途は、それがいっだったのか、なんだったのか、思い出すことはできたかった。 そうあと、二人はボソボソと話をつづけたかい母のことにはそれ以上の進展はなが~つお。 をはいつのまにかべッドて眠りについて、〔明、目がめるど、となりのべ「う鱗太・川のすかたはなか」っ「たべ山ッドの脇のデズクにかんなんな凶モが=第物〕よく眠っ'ているよラなのて、先にゆぐれから行ぐところはアフリカの荒野だ今度はいっ会えるかわからんか、おまえも一これて勉学にんてくー
鱗太郎
鱗太郎らしいメモだった。 遼はホテルを出た。 空港の離発着のロビーまで行って、鱗太郎の便を調べてみた。 だが、父の地行機はもうすでに出発したあしかたない。途は山梨の家までらどること途が空港の女関に向かいかけたときだ。 背中から声が聞こえてきた。 遼は振り向いて、あっとなった。 そこには、あの店槻静子が立っていたからだ。 突然のことに、遼はことばにつまってしまった。 高槻静子はにっこりと首を横に振って否定J だが彼女は大きなトランクを引きずっていて、まるで海外旅行かなにかの帰りのような格好である。 「こっちに帰ってきたの」 「こっちって ?」 「わたし向こうに、あ、いまロンドンに住んてんの」 たしか卒業式に会ったときには、彼女は東京の中学校に入ると言っていたではないか。 「Nう。たしか、真田くんとこのまえ会ったとき、卒業式の日だったわね。あのときは、わたし、東京の中学に行くって言ったんだけど、いろいろあってね…」 そのことは彼女もよく憶えていた。 「ね、 どこかでお茶飲まない」 高槻静子はそう言って、トランクを引きずっていった。 彼女は変わった。かつての麗人の雰囲気はまるでない。明るくなったし、よくしやべる-うにもな って一方的にしゃべりまくる高槻静子に戸惑いながらも、 遼は彼女につづいた。
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遼と高槻静子は空港内のフルーツパーラーに入った。 すきとおったがラスのテーブルで向かいあうと、高槻静子はいたずらっぱい笑いを口元に浮かべて途の顔を見た。 「ね、真田くん、わたし、どうしてロンドンまるでクイズのような口調だった。 あれ以来この高槻静子とは会ってないのだ。 遼にわかるばずはない。 だが述し、応、考える·ふりをした。 「そうだねえ。。。」 しかし荅が出てくるはずはないのだ。 「じつはねー!」 と自分から解答を言いはじめた。 「わたしね、あの日、卒業式の日、真田くんの家に行ったでしょう?」 「あれね、真田くんにはお母さんがいないって人から聞いてたからなの。 真田くん、どんな幕らししてんのかなあって、ちょっぴり見てみたかったのね。それで真田くんのうちに行ったの。あのときば真田くんもわたしと同じ境遇だと思ったのよ」 「同じ境遇?」 rそう、あのとき、じつはわたしの父と母離婚しそうだったの。ううん、いまも元にはもどっていないわ。別居中ですもん、東京とロンドンで」 「それで、あんな山の小学校へ転校してきたくだ?」 rうん。おじいちゃんたちがいたんでねまえにもちょっとだけ話したことあるか しれないけど、 父はロンドンの大使館にいるの」 rうん、 聞いたよ」 「て、母のはうが東京なの。 デザイナーやってるわ。いるロンドンには行きたがらないのね。なわけて夫婦仲がだんだん悪くなって、離婚話が進行してたの。 当然、わたしをどっ取るかで、いろいろあったわよね。それたし、一時あの山梨の学校に行ってだの。だってわたしに決めろっていうんですもん。 でもそんなこと、わたしには決められないわ.そうでしょう?」 「わかるよ」 遼は一息入れようと、トマトジュースのグラスを取った。 高槻静子は、日分のレモンティには最初にけっこう売れっ子らしくてね、ダのちょっと口をつけただけで、話しつづけていでもわたし、最初は東京の母と一緒に幕そうと思っていたの。もちろん父のこと嫌いじゃなかったけど、でも父は若い時からずっと外国で生活してたでしょ、それも旅から旅の忙しい生活、そんな生活を母やわたしに押しっけてきたんですもん。 母にだって母の人生があるし、このヘんで母の言うこともきてあげるべきだと思っていたのね、わたし。 でもあの兜は不思談 「兜?ああ、うちでかぶ、高槻静子は、あのとき遼の家の蔵て古い兜をかぶったのだ。 r.ええ。 あれをかぶったらなにか、議と自分が落ち着いたのね。まるで高い山の上にでも登ったみたいな、物事を上から冷静に、客観的に見れるような気分になったのね」 riうん、わかるわかる」 遼もあの杉の木に登ったとき、あの白虎に勝てるような気分になった。おそらく高槻静子6それと似たような気持になったのであろう。 「それであの写真よ」 「ばくの母だね?」 r ええ。あれを見たときは、ほんとうにピーンときたわ」 「でもその直感ははずれたね。 ぱくの父と母は離婚なんかしてなかったんだから」 「真田くんからお父さんとお母さんの話を聞いてたら、それはすぐにわかっだわ」 「なぜ?」 「だって真田くん、ちょっぴりムキになって二人をかばうんですもん。 ああ、真田くんばお父さん、お母さんにかわいがられてたんだなあって思ったわ。それでわたし、大体わかってきたの。真田くんの御両親のこと。真くんのお父きんはきっとお母さんのこと愛してらしたんだなあって。2う思ったられ、わたしもきたゆ。 「ああ、そういえばあのとき、きみ、ぼくの顔見てちょっぴり微笑んだんだよね。あの-きだろう、決心したの?」 「わたし、そんなに笑った?」 「笑ったさ。ちょ っびりだけどね」 あのとき高視静子は遼の話を聞いて、なぜかちょっびりと微笑んだのだ。遼はそのの彼女の笑顔をいまでもよく憶えている。 でもあのとき、なにな決ししたんがい」 遼は残っていた。ンュースをストローでジュッと吸い込んだ。 r真田くんと一緒よ」 「ぱくと? 」 「そう。わたしもね、結局は二人とも好きなのよね。だからわたしが、二人を仲直りさせてやろうって、そう決心したの」 「仲直り.てもどうやって?」 「父と母のあいだを行ったり来たりすることに決めたの」 「行ったり来たり?」 「ええ。 最初の一年は父のいるロ ンドン、次の一年は母のいる東京ってね。そしていつかわたしの力で両親を仲直りきせてみよう、そう決心したのよ」 それだけ話すと、高槻静子はカップに残っていたレモンティを一気に飲みほした。 遼に言いたいだけのことを話すと、高槻静子はさすがにいままての胸のつかえが収れたらしい。遼のはうの話はなに~聞こうともせ「わたし、夏休み中は赤坂の母のところにいるの。ね、真田くん」 "こんど遊びに来て?」 "うん。必ず行く」 " バングン味配E く 「きっとを」 先に立ってグソグソ歩いてゆく高槻静子のすがたこな、もゆの「?人」よななっていたが、Ryouはこういう彼女のほうが好きだった。それになといっても、これが彼女の本当のすがたのような気がした。 (おそらくは、あの小学校にいたときの高槻静子は、自分なりに少々背伸びしていたに違いない) 遼は、そんなことを思いながら、高槻静子の背中をながめていた。 いま高槻静子のその背中には、 悩みのかけらはども見えない。 (それにひきかえ と遼は、さきはど別れた父、鱗太郎の背中を思い出していた。 あの父の背中、かすかにふるえていたよう突然、遼は思い出した。 (あのときの背中だ。あのときの背中と一緒だ!) あのとー 母が死んだときだ。 母は死ぬ間際に、幼い遼になにか言った。 いまの遼は、 その母のことばをまるで憶.えていない。 だがそのとき、鱗太郎もばにいた。そしてそれを聞いていた。 そして母は死んだ。 議大郎はふいに意に背中を向けた。 AVして窓かし外を見た。 そのときの背中、そのときの背中が! そのときの鱗太郎の背中ち、たしかにふるえていた。 悲しみもあっただろう。 でもそれだけだったのだろうか? 鱗太郎は母からなにを聞いたのか? 遼は、遠くの空を見た。 父の飛行機はしうとっくに飛び立ってしまっている。 こんど父と会えるのは、いつの日か、わからない。 (父は、母からなにを聞いたのだ!?!) 遼は高槻静子とわかれてからも、そのことばかりを考えていた。
(以下次号)
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